エッセイその9 ナットの下が重要だったのです。


重大レポート! ナット下の話。 あなたのギターは本来の音が出てない可能性があります!



これまで調整をいろいろして,直面した大きな問題は,音のつまりの原因はどこにあるのかということです。

ナット溝ではありませんでした。 サドルの底面のぐらつきでもありません。 弦でもありません。 ピンでもありません。 反りでもありません。


もっと重要なポイントがあったのです。


ギターの音を決定的にする部分はどこかということです。 つまり,ギターの音の命は何かという問題です。


実はナットの下の処理が重要だったのです。

(; ̄Д ̄)なんじゃと?


そうなんです。知られていないんです。 知っているのは本当に数少ないリペアマンなのです。



これまで私が経験してきた中にこういう現象があります。

一度ナットを交換してもらって,溝が深すぎたので,さらに交換してもらいます。 すると,ギターの音抜けが悪くなったように感じるのです。


これまでそういうことが何度かありました。お金と時間をかけてそうなるのですから大変です。


問題1 ナットを交換してもらうたびごとに音抜けが悪くなるような気がする。

時々メーカー製オール単板で作りもいいギターなのにある音が抜けないという現象に出会います。

特にギブソンなどはある弦の音だけが抜けないという現象に出くわすこともあります。

タコマでも以前に感じたことがありました。あるER22Cは抜けるのに,別のER22Cは抜けないのです。


問題2 いいギターなのに最初からついているナットで音が抜けないことがある。

こういう問題の場合に多くの人はどう考えるでしょうか。

楽器店の店員のギター業界の少し迷信的な,または,耳学問的な回答に以下のような例があります。



よくある答え

A1 ギブソンは個体差が大きいからね。当たり外れがあるんだよ。

A2 弦が古いと音はだめだよ。弦の寿命だよ。エリクサーに変えてみたらどう・・・。

A3 弾きこめば変わるから。もうすこし弾き込んでみたら抜けるようになるよ。

A1 確かに個体差があることは手作りですのであり得ます。 でも耳が慣れると「抜けない音」「曇っている音」が何か分かるようになります。

ここでいう音が曇っているというのは,個体差のレベルとは違う問題です。



A2 確かに弦は関係があります。


特に新品の弦を張るとこの抜けない音というのが分からなくなります。 エリクサーを張ると分からない時間がさらに長くなります。


それ位エリクサーは弦のキャラクターが強いです。鳴りにくいギターには必需品の弦かもしれませんね。

それで,普通のフォスファーの弦で1週間以上経って枯れている状態で判断するのが分かりやすいです。

その弦で開放を鳴らして行く時に,ある弦は芯がある音色で高音までバランスよく響くのに,ある弦は音が甘く感じたり曇ったりするでしょうか。

どちらかというと,2~5弦などの中間の弦にその現象が出ることが多いかもしれません。

ナット溝をいじると少し解消したように感じますが,また同じになります。一時的なことでは解決しません。


弦を新しくするとこの曇りは分かりにくくなります。少し古いフォスファーで確かめましょう。



A3 弾き込んで解決する問題ではありません。

弾き込んで行くとそのギターの鳴りは良くなりますが,抜けの悪さは残ります。

曇るという表現がもっと的確でしょう。



これらは何が原因でしょうか。


その答えは外観からは全く見えない,些細と思える部分にカギがあります。


それはナットの下の処理です。つまりボンドがナットとネックの間に挟まっているのです。


えーでも,メーカーが最初からつけていたモノだからいいのではないですか?


そう信じたいのですが,残念ながらこの問題の真実は違います。

実はメーカーは音のために弱く付けたいのですが,ユーザーがナットが取れたとクレームになるとメーカーに戻って行きます。これは困ります。


それで,メーカーは取れないようにボンドをたっぷり使うのです。


このようにメーカーの標準は本来のそのギターの音が出ていない場合が多いといえるのです。 ギブソンなどはナットをよく見るとボンドがはみ出していたりします。ボンドの層が見えることもあります。


これでは個体差と思える鳴りの違いが生じても無理はありません。


ナット下の処理の重要性ですが,それは調整の順番の最初にしなければ,他の部分,つまりサドルやナット溝やブリッジピンなどでバランスを調整したことが意味を持たなくなります。



ナットの下の処理は調整の最初にすべき事で,そのギター本来の音を引き出す作業なのです。



ですから,楽器店の店員やだれか詳しい人の間違った判断で,サドルを変えたり,弦を変えたり,ペグを変えたり,いろんなことをやってやって最後にナットに行きついたとしたら,ここまでの調整すべてをやり直す結果に成り得ます。


だから重大レポートなのです。


昔はニカワでつけていたこのパーツも今は瞬間接着剤でつけます。便利なのですが,これがナットとネックの板の間に入るとどうなるでしょうか。



ボンドが緩衝材としてクッションになってしまい,弦の音がボディにクリアーに伝わらなくなります。そして,音が曇るのです。



(≧◇≦)エーーー!


そんなに重要なんですか~。



まじで。重要なんです。



この写真をごらんください。


何度かナット交換がされているギターです。 もちろんプロのリペアです。


このリペアマンが悪いわけではありません。メーカー標準に準じているからです。


でも,ナット交換の時に前のボンドを取らないとどうなるでしょうか。


ボンドが重なっていくのです。 これで,音が詰まるのです。


どうすればいいのでしょうか。 サンドペーパーはすぐに目が詰まるので,最後に少し使うのがいいです。それまでは,辛抱強く彫刻刀で削ります。


時間をかければ出来ますよ。 エボニーを削らないように,下地のマホガニーを削らないようにします。

ボンドだけを落としていきます。




ここまでくればあと少しです。

この部分をすべて取り除き,ナットを乗せて最小限のボンドでつけます。


ニカワがやはりいいのでしょうか。いつか挑戦します。 でも,この瞬間接着剤はかなりいいです。



ゼリー状でたれませんので,底面に米粒の半分以下の大きさで二点最小限につけられます。指板側にも小さく二点つけます。

そして,遅硬化なので,左右に少し動かす余裕があります。 そして,さらにボンドを薄く延ばせます。

これがまた100円ショップなのでありがたいです。



2008/5/14 追記 ナット下のボンドの重要性は昔よりも知られてきました。

マーチンもタイトボンドで付けてきます。 ギブソンは相変わらず瞬間接着剤がはみ出して白くなっていたりします。

私の耳では,瞬間接着剤はどれもやはりだめで,タイトボンドになりました。

さらに,タイトボンドも100%の濃さではだめで,水で少し薄めてボンドを緩くして使います。 この薄いタイトボンドが非常にいいのです。

そのためにはナットのサイズはジャストフィットするように作ります。 ボンドそのものがわずかしか残らないようにするためです。

あるショップのリペアマンは,ナットの接着に指板側にしかボンドをつけないということを聞きました。 底面側にボンドを付けると,はがす時に木がはがれるので,底面にはつけないというのです。

どちらがいいかは音で判断ですが,ぴったりとくっついている方が振動を妨げないと思いますので,一般には薄いタイトボンドで底面も接着というのはいいと思います。



ところが,ここにさらに問題があります。

最初にナットをはずす時に,コーンと取ると,ナット側に下地の木が少しくっ付いて,下地に穴ができることがあります。


下地の穴がほんのわずかだったとしても,次のナットをつけるとそこにボンドが入り込むことになります。


つまり,下地にボンドが入る穴があってはならないのです。 でも,穴になってしまったらどうするのでしょうか。




この陥没はナットをはずす時にえぐられた部分です。 ここを小さい印鑑用のノミとか彫刻刀できれいな形に削ります。

そして,同じ素材のマホガニーであれば,ベストですが手元になかったので,私はスプルースを埋めてしまいました。

同じサイズにカットして,タイトボンドで貼り付けます。 クランプの代わりにゴムバンドで固定して1時間以上置きました。

それをさらに彫刻刀で削り,上面をそろえます。

そして,最後は軽くサンドペーパーです。


ナットの底面に両面テープでサンドペーパーをはるか,5ミリくらいのきれいに削った板を準備しておいてそこにサンドペーパーを貼り付けるかして,底面を整えます。



ここからペーパーの目を細かくしてきれいにならします。

最終的な写真は作業に夢中で忘れましたが,サドルの底面につけたサンドペーパーで合わせました。

このカチッとつけたナットで弦高調整をして出てきた音はどうでしょうか。


♪ぽろろーん。



ヽ(・_・;)ノ ドッヒャー



これがギブソンサウンドですか。ソロギターもいけます。


弦高をここまで下げても鳴ります。(2.3ミリの1.6ミリ) テンションは楽勝です。

この音色はあまりにすばらしいです。これがギターです。

最近手がけた他のギターもナットのした処理ですべて生まれ変わりました。


こうなると,他のギターもやっていくしかありません。


実は私のフォルヒはナット交換された形跡があります。


(・_☆) キラーン


ポリウレタン塗装は硬いので,ナットをはずす時にヘッドへ向かってナットを木などでコンッと叩いた時に,塗装が押されてこのように少し浮いたように剥がれぎみになることがあります。


最小限の力でやればいいかもしれませんが,こういう風になりやすいんです。


新品でも,調整時点で深く入りすぎると交換される場合があると思います。


今までエリクサー弦で気が付きませんでしたが,フォスファーにして数日たったら抜けない音があるのです。

( ̄□ ̄|||)がーーん!



やるしかないな。

つづく。

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