板の木目と音の関係

ギター業界にある迷信の1つに「目の詰まった」とか「狭い木目」の方が音が良いとか言われて重宝される事があります。


恐らくそれはマーチンのトップ板のグレード分けの1つの基準に,1インチ(25.4ミリ)に何本年輪が入るかというのが昔あったからだと思います。25本入れば 1ミリの年輪が入る感じになります。


木の年輪一本が一年の成長を表すのですが,狭いということはゆっくり成長するつまり比較的寒い地域の木材はそうなりやすいという事です。


正直私は年輪の幅と音質は関係ないと思っているのです。狭いのが良いというのは迷信だと思っているのです。

なぜかというと木の品種で年輪の幅に違いがあるからです。

例えばアディロンダック・スプルースは最も年輪が広くなりますが,硬さはスプルースの中で最も硬いです。 次がアルパイン,シトカと来て,インゲルマンはしなやかさが特徴となります。


インゲルマンもアルパインも木目が詰まったものが多くなります。シトカは詰まったものもあれば少し広めのものもあります。


この写真を見てトップのグレードはどのクラスだと思われますか?



これはなんとマーチンOM45 Customの選ばれたシトカのトップなのです。

この木目は広めのシトカですが音は最高なのです。




次はOM28スタンダード2021年製の木目です。



これもワイドグレインを採用しています。


アディロンは広めなのですが,硬さは一番硬いです。特にベイクド・アディロンの場合は焼いていない白いアディロンと違って,木目がよりはっきりと見えてしまいます。


また,中心に近い部分の色合いが濃くなってしまいます。なので,パッと見綺麗でないと感じるかもしれませんが,白いスプルースも年数が経つと茶色に変色しますので,同じなのです。


ベイクド・アディロンの幅の広さと中心部が濃く出て来るのをご覧ください。



でも音は叩いてみればわかるのです。年輪が狭いアルパインと叩いた音を比較してみてください。縦曲げ,横曲げの硬さもアディロンが硬いです。目の詰まったアルパインより目の広いアディロンが硬いのです。



トップの硬さは品種の違いが大きいのです。

目が詰まっていることで硬さが変わるという事よりもこれはもっと大きな要素です。



マーチン博士と呼ばれるマイク・ロングワースの言葉をギタープレイヤーにしてギターコレクター,さらにはマーチン社が製造を担当したショーンバーグ・ギターのエリック・ショーンバーグ本人が引用しております。



wide grain can sound great.
広い木目のアディロンがすごい音が出る!

エリック・ショーンバーグの木目の解説



GoogleでD -18GEの画像を検索するとこれが出てきます。木目の広いアディロンです。

D-18GEの画像


でも18GEはレスポンスがよくフィンガーで楽しく弾けて,まさに戦前のゴールデンエラを復刻したと言えるギターでした。フォワードシフト,スキャロップ,アディロンダックこれがキーワードになったと思います。


フォワードシフトのスキャロップは現在のマーチンのスタンダードにもなっていると思います。


話を板に戻しましょう。


板が硬い方が良いのか?つまりアディロンが万能なのか?という事ですが,これは適材適所と言えると思います。


牛肉料理に例えるとわかりやすいのです。和牛の霜降りは味がわかりやすいので人気がありますが、少し硬めの牛肉も薄切りにして牛丼にすれば美味しいし,赤身のランプ厚切りはオーブンで表裏4分ずつ焼くと内側が赤く外はカリッと、見た目のグラデーションが芸術的で美しく肉の旨味が楽しめます。


素材の特性を理解して何と合わせて,どのボディサイズにしてどんな音を作るか?

これがギター作りの面白さの1つなのです。

例えばAyersの人気機種SJ06E-CXは 06つまりジャーマン・メイプルのサイドバックにトップはEつまりインゲルマン・スプルースを組み合わせているのです。


インゲルマンは曲げるとシトカよりしなやかですが,音は高音が伸びるのです。ハーモニクスを出すと明らかに高音の伸びがいいです。これにレスポンスが良いジャーマン・メイプルと合わせるのです。メイプルは高音のキンキンした部分を反射しないのがローズウッド系とは違っている部分だと思います。


なのでメイプルのギターはミッドレンジの厚みと太さを感じられます。これでボディがAオーディトリアムでさらにミッドを強調するか? SJにしてストロークでも楽しめるサウンドにするか? こういう事を過去6年繰り返して、年間100-150本製作して来ましたので,既に600本を超えると思います。


アルパインとベイクド・アディロンの質問を受ける事が多いので簡単に説明させていただきますと,ベイクド・アディロンは最初から音の抜けを感じます。つまり硬さを感じないのです。素晴らしい素材だと思います。


アルパインは比較すると最初硬さがあります。ところが, 1年もしないうちに硬さがこなれてくるとコントロールしやすいサウンドに変化していくのです。最初からこなれている音を欲しい人はベイクド・アディロンですね。育てて行きたい人はアルパインも良いです。


サウンド的にはアディロンはパンチ力があります。強く弾いた音に応える最初に返ってくるパンッという音の強さが特徴です。ストローク中心だったり,叩くのが多い人はアディロンも良いと思います。


それに対して指先の微妙な変化を表現したい場合はアルパインという選択肢もあると思います。鳴るまで少し時間がかかりますが高音の伸びはシトカよりも感じると思います。


真っ白なトップでいわゆる目が詰まった木材も選択できます。これをベトナム・ローズもしくはマダガスカルと組み合わせるとレンジの広さと高音の抜けを感じると思います。SJやDで作ればワイドレンジなギターが作れます。


インゲルマンとシトカはどうか?

高音が伸びていると違いを感じやすいので,一般論だとインゲルマンが良いという人は多いと思います。でも,シトカは欠点がないくらい良い材料なのです。自分の個性が強くなく,誰とでも合わせられて,しかもお値段は高くなく。予算に限りがあるオーダーの場合トップにかけるか?サイドバックにかけるか?装飾にかけるか?これもオーダーギターの面白さの1つですね。


シダーはどうなの?という話がありますが,シダーも高音のキンキンした部分を反射しませんので,ハーモニクスを出すとシトカよりもマイルドな音のイメージになります。 


もしキンキンを反射させないマホガニーと組み合わせると鉄弦なのにクラシックギターのような超マイルドなサウンドになり,病院でも弾ける癒し系サウンドになるかもしれません。なのでライブでの表現力は少し物足りないかもしれません。


シダーの柔らかい音色とレスポンスの良さ音量の大きさは右手のコントロールを楽にしてくれます。シトカよりも大きな音量が出るので,ギター歴が割と少ない人にもおすすめ出来ます。

シダー : 癒し系,レスポンスと音量,高音が耳に優しい

シトカ : マルチプレイヤー 悪いところはない。時に個体差で超優等生が出る

インゲルマン : 色白美人,高音の伸び,高音側のレンジの広さにつながる

アルパイン : 硬さと高音の伸びを持つ,鳴るまでちょっと我慢

アディロン : パンチ力,音量,迫力,特にベイクドは最高の材

ついでながらバックのローズについても簡単に説明しますと,インディアンが正目で使えるのですが,同じインディアンでも曲げてみると硬さには違いがあります。


他にベトナム・ローズとかココボロ,マダガスカルはほぼ板目で入荷します。正目を英語ではクオーターソーン(Quarter Sawn)と言って丸太から1/4しか取れないので,高級なローズ系は現在ほぼ板目のものが多いです。


でも,品種が硬さと密度により大きな影響があります。つまり,インディアンが正目でもベトナム・ローズの板目の方が硬く密度があります。音のレンジも明らかに広くなります。


もしも,ベトナム・ローズの正目か板目か選択出来たら正目がより良いと思われます。ハカランダも正目のハカランダが良いという人もいます。比べる機会が少ないですよね。


でも重要度は品種が先で,木目は後です。